星降り山荘の殺人 (講談社文庫)
都筑道夫『七十五羽の烏』の趣向にならい、各章
の冒頭に作者からの注意書きが掲げられた本作。
《吹雪の山荘》という舞台設定やステロタイプな登場人物たち、そして事件を
不可思議に装飾するオカルト要素など、あくまで本格ミステリの「型」に徹し、
その上でフェアな犯人当てを志向した作品……ではあるのですが、正直作中
に配された手がかりだけで、読者が犯人を特定するのは厳しいと思いますし、
探偵役を務める人物が展開する推理にも、ちらほら穴があるのもたしか。
むしろ、作者には、本作を“端正なパズラー”という体裁に擬態することによって、
真の狙いであるメイントリックをカムフラージュする意図があったのだと思います。
さて、以下は本作で起きる連続殺人事件について、少し雑感を。
第一の事件では、現場にミステリーサークルが作られていたのです
が、捜査の攪乱という動機はあまりに必然性に乏しく、不自然です。
また、事件の根幹をなす、ワトソン役の“思い違い”が何であるかを
推理するために必要な手がかりが不足しているのもいただけません。
とまあ、この他にもいくつか突っ込み所はあるものの、手がかりをもとに犯人の条件を導き
出し、容疑者を絞り込んでいく本作の消去法推理は、折り目正しい正統派ではあります。
推理に多少の不備があったとしても、本作のメイントリックによって
うやむやにされてしまうというのがズルいといえばズルいのですがw