イレヴン・ストリング・バロック
現代最高のクラシック・ギター奏者と言ってよいセルシェルの2003年10月の録音。帯の宣伝文句によると、録音会場は世界で最も静かなスタジオの1つだそうで、11弦ギターの一音一音の奥行きと休符時の静けさをしっかり捉えた録音が見事。もちろん、セルシェルの11弦ギターの響きの豊かさ、演奏の確実さ・巧みさは従前の作品と同様に素晴らしく、本作も彼の、いやクラシック・ギターの代表的名演の1枚に位置づけられるでしょう。セルシェルは以前バッハの曲だけでCD3枚組を作り上げましたが、本作はディスク1枚で、バッハの有名曲だけでなく、ヴァイス、パッヘルベル、ケルナー、ロマン、バロン、クープラン、そしてロジといった多彩な作曲家の曲を採り上げています。バッハ3枚組は最も新しい録音で91年でしたから、それから約10年以上たって円熟度を増しつつも変らぬ清らかなギターの音の響きを本作で再び味わうのは最高に贅沢なことではないでしょうか。まさに心にしみる癒しの1枚です。なお、本作最後の曲、バッハのサラバンド(無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第1番から)は日本盤だけのボーナス・トラックなので、本作は日本盤を求めることを薦めます。
プレイズ・ビートルズI~フール
本作は94年にデジタル録音された、全曲クラシック・ギターの独奏によるビートルズ・カヴァーの金字塔と評すべき傑作。M8、9、13、17は11弦ギターでの演奏。セルシェルはこの後ギター独奏だけでないビートルズ・カヴァー第2集セルシェル・プレイズ・ビートルズII〜フロム・イェスタデイ・トゥ・ペニー・レインをリリースし、それら2作からギター独奏を集めてビートルズ名曲集が作られた。そのビートルズ名曲集には本作から11曲選ばれているので、オリジナル盤の2作でセルシェルのビートルズ・カヴァーをすべて集めるか、編集盤のビートルズ名曲集を求めるか検討することを薦める。編集盤には収録されず本作だけで聴けるのは、M2、3、11〜13、15の6曲。編集盤を持っていても、ビコーズ、イフ・アイ・フェルやアンド・アイ・ラヴ・ハーは本作でしか聴けないし、実際期待を裏切らない名演だから、結局本作も求めたくなるのではと思う。
G.マーティンがコメントしているが、控えめな編曲(セルシェルのものが6曲で、残りは武満徹、森永永和およびサンドクィストのもの)が曲の本来の美しさを引き出していて、ギター独奏に素晴らしくマッチしている。演奏はクラシック・ギターの音色の心地よさに満ち、聴き飽きることがない。本家ビートルズCDのリマスター盤の発売の前に、カヴァーでビートルズ名曲の真価を確認できる最上クラスの作品だ。
なお、上のジャケ写真は紙ケースに印刷されているもので、その中のプラスチック・ケース内のジャケ写真はカラーです。