利休にたずねよ (PHP文芸文庫)
山本一力や和田竜など、これまでの時代小説の世界にはなかった世界観を持つ作家さんが活躍してますが、
斬新な切り口と時代小説の深み、
そのふたつを一番高いレベルで持ち合わせているのは間違いなく山本兼一先生であったと唸るしかない力作です。
実は何年も前に「火天の城」を読んで以来の久々の出会いだったんですが、初期の山本作品は
「この作者さんはすごい量の資料を読んだんだろうなあ」
という感想が浮かびました。
それはそれで凄く面白かったんですが、この「利休にたずねよ」と続けて読むと、
膨大な資料を小説にまとめる力はそのままに、文章の読みやすさやフィクション部分の自然さといった、小説家としての力量があがっているのが明らかにわかります。
自分が生きていなかった時代の、これまた知らない世界のことを、上質な文体にのせて一気に飲み干したあとの充実感はたまりません。
あとはこの話で語られる利休がけっこうクセのある人物なので好きになれるかどうか…。
好きになれない人には読後感もあまり良くないと思います。
利休にたずねよ
物語は利休切腹の瞬間ときから時間を遡さかのぼっていく。最後は戻って切腹直後。非常に斬新な構成で次々とページをめくらずにはいられません。若き利休が恋こがれた高麗の女性が所有していた緑釉の香合。切腹までしてかばった緑釉の香合と恋こがれた高麗の女性との想い出。そこまで恋焦がれる女性に出会ってみたいです。それにはまず茶道から始めなければ・・・
利休にたずねよ
火天の城 (文春文庫)
安土城が空前絶後の城であった事は周知の事実であり、それをゼロから作るという途方もない事業に挑む男達の話だというだけで興味がそそられる。
それだけではない、主人公が城大工ということで、築城に関わる多くの人達、組織、エピソードが盛り込める。着眼点の勝利といえる。
関わるのは施工主の武将にはじまり石工・木挽・陶工・人足、賄いに至るまで。ネタの裾野が広いだけではなく、スケールがでかい。巨石・巨木・大組織とスケールの大きい素材を好きなだけ盛り込める。
主人公の岡部親子の葛藤を物語のもう一つの柱にしながら、凝縮された素材が一気に描き上げられるのだが、築城に挑む岡部親子の姿は、歴史という巨大な機械を、様々な角度から、様々の情報で、重層的に描く事に挑んでいる作者の姿と重なって見えてくる。
とりわけ、全編にびっしり盛り込まれた情報の量がこの小説の醍醐味といえる。さりげなく専門用語を用いるなど、細部に至るまで工法やら挿話やらうんちくが贅沢に続く。力技でありながらさらっと盛りつけられており嫌味がない。背景にある膨大な情報のほんの一部ずつ必要量だけを自然に使っているのだろう。