ポップコーンはいかがですか?
本欄の先行する評者の方々が熱く語っているように、筆者も冒頭から最後まで一気に本書を読みほした。なるほど、圧倒的に面白い。
著者が類稀なバイタリティと先見性を持った起業家として、奮戦苦闘し成功の階段を上っていく様は、正に一篇のビルドウィングス・ロマンに接しているかの如く興奮させられた。成功談にありがちな我田引水めいた記述もなく、自らの至らなさや未熟さについても真摯に記しており、その点も非常に好感が持てる。
ただ、自らが立ち上げた会社への「あの決着のつけ方」(既知の方が殆どでしょうが、敢えて伏せます)には、著者自身、心の底からの充足を勝ち得たのだろうか?
日本の硬直した映画興行システム(ブロックブッキングや世界一高額な鑑賞代金等)に憤慨している、一介の映画ファンに過ぎない筆者からみれば、近年のヴァージンシネマズジャパンの躍進ぶりには溜飲が下がる思いでいっぱいだった。それゆえに、「エスタブリッシュメントに新興ベンチャーが資本の論理で呑みこまれる」という結末を残念に思ったのも事実である。
直近の出来事で生々しい記載はためらわれたのであろうが、その辺りの著者の心の奥底をもう少し晒してみて欲しかった、というのは過ぎた望みなのだろうか。
とまれ、著者の今後のご活躍を願ってやまない。