長谷川晶一氏の文章の特徴は、取材対象を生き生きと描きこなすところにある。
言うなら、「超」の字がつく動的ロードムービーと称すべき文章が多い。
昨年刊行された「夏を赦す」は、その傾向が最も顕著に表れた書であると思われる。

しかし今回の書は、他の長谷川氏の著書とは決定的に違う点がある。
それは、取材対象を自らの土俵に取り込んで、それを縦・横の軸をもとに整理分析することを基本線に据えた企画であること。

言うなら本書は、「動的ロードムービー」を極めた前作「夏を赦す」の対極にある、「静的ロードムービー」であろう。

2005年、プロ野球が2リーグ12球団を何とか維持できた年から10年が経過した。
その間、プロ野球界はこれまでにない劇的な変化を遂げたことは周知の事実である。
それは、ファンクラブという、優良顧客を取り込む組織においても同様であったことは、長谷川氏の書かれているところを読めば一目瞭然。

プロ野球のここ10年の変化は、野球を語る書籍においてもこれまでにない変化をもたらした。
先日、プロ野球解説者に照準を合わせた書籍が出版されたが、ファンクラブ、それも特定球団だけではなく、日本国内のＮＰＢ全球団を対象にした本書は、まさに、空前絶後の視点と言えよう。

さらに熟読させていただき、もっとじっくりと、長谷川氏の「静的ロードムービー」を楽しませていただこうと思う。
同時に、ぜひともこれから5年、10年先にも、本書の続編が執筆されることを願い、本稿の結びとしたい。