少し芝居がかったナレーションとともにヴィニシウスの物語が始まる。
彼の生い立ち、有能な外交官としての日々、そしてそれに並行して繰り広げられる女たちへの愛とボサノヴァの日々。
煌めくように鮮烈なメロディに降り注ぐ言葉たち、ポルトガル語の微妙なニュアンスまでは理解できないにしても、その集合体が創りだす瑞々しく洗練された世界が普遍性を帯び、映像とともに心を揺らす。

　モライス一族や、ゆかりの音楽関係者たちが彼のエピソードを綴る。
ヴィニシウスと人生を交えた女たちが、その都度彼を更新し、彩り、あらたな音楽を、詩を誕生させていった様子が回顧される。
ドキュメンタリー映画としてとりたてて目新しいものではないが、そこに登場する多彩な人々によって語られる物語、とりわけ奏でられる音楽たちに陶然とさせられる。

　何事にも執着することなくひたすら愛だけを求め続け、他者を高揚させるために費やされた人生、自己犠牲などという次元を超越した他者への圧倒的な愛は、彼が紡ぎだした言葉たちの中に生き生きと宿り続けている。