曲をバックに、彼に関わった人物たちのインタビューや舞台演奏、さらにはその時代の彼の関わった街々の映像をもとにつづる、サッチモことルイ・アームストロング(以下「ルイ」)の映像版伝記物語である。

１９４７年に封切られた映画「ニューオリンズ」も、ある意味ルイの半生記的な要素を取り入れた作品ではあるのだが、時代考証はともあれ、必ずしも事実に基づいているというわけでもないようである。
それに対してこちらは、ルイの人生を時代を追って紹介していき、それに応じてその時々で関わってきた人たちのインタビューを掲載している。

確かに、ルイは音楽の才能に恵まれ、そしてそれを見出されたがゆえに、栄光をつかんだ。そしてその名は、彼の音楽とともに全世界にとどろき、後進の音楽家たちに今なお影響を与えてさえいる。
しかしながら、彼もまた、その時代のアメリカ合衆国という地に生きた生身の人間であったことが、彼の栄光と音楽を見聞きするほどに、嫌というほど観る側も感じざるを得ない。

ルイの出自とそこからの脱出、そして栄光への道は、決して平坦なものなどではなかったことは、事実に基づく抑制のきいた解説によって淡々と語られるがゆえに、途中まではそれを感じさせないほどであるものの、後半になるにしたがい、その影のあまりの重さが、みている私にも、否応なく感じられてならなかった。

本作は、一人の黒人(これは確かに重要なファクターであろう)音楽家とその周囲から見た、アメリカの、否、およそ先進国と呼ばれる国々の２０世紀の歴史を体感できる資料として、きわめて貴重なものであると言えるのではなかろうか。