人生の折り返し点に立ったジュゼッペ・トルナトーレ監督が故郷バリーアをまるごと描いた一大映像絵巻で、一通りでないテーマと数多くのエピソードが交錯する内容であるために、人によっては長尺で散漫な印象を受けるかもしれないが、私にとっては宝石のような作品になった。そこにはシチリアの大自然、階級差別と因習に縛られて生きる人々、マフィア、無知と貧困、固い家族愛と人間の尊厳などが離れがたく結びついて物語られているからだ。主人公で一介の牛飼いだったペッピーノが戦後政治家を夢見たのもこの土地の不条理な窮状を救うためだったに違いない。たとえ彼がその器量に欠けていたとしても、人生を賭けてがむしゃらに闘った一途な生き様と家族へのひたむきな愛は感動的だ。ストーリーには幾つかの伏線が敷かれていて、物語の終焉でそれらが総て再現される展開もトルナトーレの鮮やかな手法だ。

映画の持つ魅力を満載した八方美人的なところもあるが、トルナトーレは常に庶民の側に立った描き方を放さない。それは大衆に媚びているのではなく、彼自身の庶民的な性格と不当に扱われている下層の人々への暖かな共感の表れで、そのあたりに多くの人から支持される理由があるのだろう。映像の美しさとエンニオ・モリコーネの音楽が一体になった制作方法も、いまや彼の作品の常套手段で、一層の効果を上げていることも疑いない。またここで活躍する多くの子供達の開放的な演技も特筆に値する。イタリア映画ファンなら友情出演したミケーレ・プラーチドの雄弁な演技も彼の健在振りを示していて懐かしいだろう。その他にもモニカ・ベルッチ、ラウル・ボーヴァも顔を見せている。ちなみにイタリアでは総てシチリア方言で会話が進む、イタリア語字幕スーパー付シチリアン・バージョンも別途リリースされている。