虫・コレ 自然がつくりだした色とデザイン
Amazon Vine 先取りプログラム™ メンバーによるカスタマーレビュー (詳しくはこちら)
昆虫の魅力って、何て言うんでしょう、表情を欠いて、人間の共感を拒む機械のようなカラクリのようなところにある気がします。肉眼ではよく分からない細部も、クローズアップすると言葉を失うほど精緻に出来ていたり、生態なんかも、これってどうやって進化論で説明するの? っていうような、想像を絶する自然の巧緻を見せつけられることも多い。昆虫写真のファンって、そういう細部や生態が写りこんだ作品に感応するのだと思います。
ただ海野さんの今回の作品集は、細部をさらにクローズアップして、昆虫の写真なんだか何なんだか分からないほどに接近しています。カラクリの魅力や生態の不思議が見えにくくなったのは確かだし、ある種の昆虫「写真」ファンが残念がって「馬鹿でも綺麗に見えるものをクローズアップした」と批判するのも分からないではありません。海野さんの代表作になりうるものかと問われれば、ノンと答えざるをえないでしょう。
でも、このクローズアップを超えた超クローズアップによって明らかになる世界は、やはりまた昆虫の細部の不思議をよく伝えています。実際、この「馬鹿でも綺麗に見えるもの」の数々は、不思議な魅力に満ちています。優れたデザイナーが高度なCG技術を駆使すれば、このような世界を生み出すことが出来るのでしょうか? 私には信じられない。
確かにカラクリや生態の不思議についてさまざまな想像をめぐらすような、生命としての奥行きある魅力には欠けるかもしれませんが、人間の共感を極限まで拒否するような文様の数々には、ちょうど雪の結晶写真を見るような、自然の「表層」の魅力というものが備わっています。それを否定することは出来ないんじゃないでしょうか?
小学生時代、それなりに値の張る星や星雲の望遠鏡写真集を買ってもらって大切に本棚にしまいこんでおき、時々取り出して眺めては、その美しさや不思議さにウットリしていたものですが、この写真集にも同じような匂いが漂っています。その証拠と言っては何ですが、私の身近な小学生は、最近毎晩この写真集を寝床に持ち込んで、黙っていつまでもページをめくっていますよ。