午前二時半。辺りは真っ暗。当然だ。

車に乗り込み、阪神高速を神戸から東へ。目的地は奈良県十津川村の玉置神社。到着した時には夜が明けている。そこで玉置山に宿る龍の神とご対面。すなわち、自分自身の内にある"魂"と向き合ってその声に耳をとぎ澄ませる、という作業をこの５月の間に二回行った。そして、二回ともまず最初に車の中でかけたのがこの『Dusk』のCDだった。

"求めていたものを手に入れた途端に幻滅する。真の自由は心の欲望からの自由で、真の幸福はそこにしかない"と、「お前はブッダか！？」と突っ込みを入れたくなるような曲から始まる。途中、「孤独を慰めるためのゆきずりのセックス」や「肉欲を持て余して理性を失ってしまいそうな精神状態」などが次々と歌い上げられていく。が、「救ってくれ　俺をこの俺自身から」と苦しみの根っこがどこにあるのかという"気付き"を経て、最終的に"世界はあまりに大きすぎ、人生はあまりに短すぎる…一人きりで過ごすには" という悟りに至る。

たぶん、マット・ジョンソンがこの『Dusk』を作っていた時に心の中に抱えていたものは、私が離婚してからのこの５年半の間ずっと格闘してきたものとほぼ同質の悩みや"業"だったのだろう。それはこの音楽に身を委ねていれば自然と理屈抜きで了解できる。かつ、自分が玉置神社にお参りしたり玉置山の麓に湧き出る龍神水を汲んで飲んだりしているのは、そういった"自分の内側にあって自分自身を苦しめるもの、魂を内側から破壊しようとするもの"から自由になりたい、解き放たれたいという意思に基づくものではなかったか、と。

他のアーティストの、他のアルバムにはとてもこんなレビューは書けない。でも、このアルバムにはこういったレビューこそがふさわしい。と私は思ったので。