1967年にマーシャル・マクルーハンにより著されたメディア理論についての名著を音に起こした作品。ジャケットのインパクトもさることながら内容も訳のわからない企画盤なのに、テープ・コラージュやサンプリング・ミュージックの名盤となっている。

マクルーハンは文明に対する批評家として今でも重要な位置づけをされている学者。もともと英文学の教授だったが、「メディアはマッサージである」という当時としては斬新な理論を展開し、メディア研究の方で有名になった。60年代後半にも関わらずインターネット時代の到来の予告やグローバリゼーションについてなど当時としては早すぎる主張を行い、映画などのメディアにも出演したため、信者を産んだ反面専門家からの批判も多く受けたらしい。

本作はマクルーハンが同著を朗読し、敏腕プロデューサーであるジョン・サイモンが音楽やSEをコラージュしたという実験的な内容。テープ編集や物音・SEのコラージュ、怪しいピアノ音源、左右の不思議なパンニング…。どこまで本気でどこまでふざけているのか全く判別つかないが、とにかくその切り貼りセンスが凄い。生真面目に朗読するマクルーハンの淡々とした言葉と、それに呼応しているのかしていないのか次々と飛び出す謎の音たち。珍盤とはこの一枚のためにある言葉であろう。

ヒップホップ系レーベルからの再発というのも面白い。リマスタリングの効果はさっぱりわからないものの、ブックレットやライナーノーツなど豪華。DJ Spookyはまだわかるが、ジェロ・ビアフラやウディ・アレンまで。いかに本作が広くインパクトを与えたかがわかる。