ブラームス、ベートーヴェン、シューベルトの後期ソナタのみを収録した異色のＣＤです。企画の個性が際立ちます。演奏も秀演であり、一つひとつの音を丹念に紡ぎ出すタペストリーのような作品です。奏者の個性と人間性が演奏に滲み出ています。ひとつ不満があるとすれば、特にベートーヴェンの作品109、110の緩徐楽章はテンポが遅いために生き生きとした動きに乏しい印象になってしまいました。音楽全体の流れを大切にした表現かと思いますが、もう少し、リズム感を積極的に表現してもよかったのではないかと思います。ゆっくりとしたテンポでじっくりと音楽を聴かせる演奏スタイルは奏者のすばらしい個性ではないかと感じました。テクニックを強調することもなく、内面を重視した演奏に共感がもてます。グルダ、アシュケナージ、ブレンデルも名演に聴き慣れた耳にはやや物足りなさも感じますが、さらなる個性の大胆な表現にも期待したいところです。お勧めの一枚です。