東日本大震災、太平洋戦争など、幾つかの例を引きながら、他人の死を悼むことについて書かれた小説。生きている限りは経験することのできない死や霊を描くということは、芸術家にとって非常に力量を問われる難題である。演劇の作り手達にスポットを当てた、作者らしいギョーカイ小ネタを軽妙に用いつつ、DJ口調で大半の章を通すあたりに文体を巡る試みも見て取れるが、この軽さは読み手の好みによって評価が分かれるだろうし、現代文学作品として真面目に読むなら、そもそもそんなに凄い文体実験という訳でもない。酷評しているレビュアーの方は、これらの点が鼻についている模様である。（個人的には、ラストでラジオの聞き手達のコメントが流れる様は、ラジオではなくニコニコ動画みたいで興味深かったが（笑）、これが意図したものなのかどうかは、もしいつか作家にお会いすることがあれば聞いてみたい。）

　以上のようなイチャモンをつけはしたが、この小説は生きている/生き残った人間がどのように死者を悼めばよいのかということを、真摯に熟考して書かれており、この点で僕は本書を皆さんに推そうと思っている。例えば、p.64-72で登場人物（震災ボランティアの青年）が、被災者たち（遺族）の心の領域に勝手に入り込んで安易に感情移入したり、安全なところから一時的に来て何か自分も役に立ちたいと勝手に知りもしない死者に対する感傷に浸る行為を厳しく批判する台詞（「生きる望みを失う瞬間の本当の恐ろしさ、悲しさなんか絶対にわかるわけがない」、p.72）は、理屈で言えば絶対に正しい。だが、そのシーンにいる他の登場人物は、（そして恐らく作家自身や大半の読者も、）そのようにデジタルに割り切れず、同時にそのような「死に対する一つの考え方」を強制するような口調に対して、沈黙せざるを得ない。

　想像ラジオというモチーフは、上記のような正論に対する割り切れなさをベースにしたお話であり、その点では、やはり震災後の日本人に読まれる価値のある作品なのだと思う。（余談だが、「悼む」ということを巡っては、とある神社の合祀の在り方について隣国が色々と口を出してきているご時世である。太平洋戦争に本作が言及している理由の一つは、「悼む」ということに関するこういった問題も作者が意識している結果なのかもしれない。）