「医師アタマ」との付き合い方―患者と医者はわかりあえるか (中公新書ラクレ)
昨年、手術をしました。今まで大きな病気をしたことがなかったので、病院での医師との会話に「?」ということもありました。特に手術前に「同じような手術をした人でも、良くなった人も悪くなった人もいて、私にはどうしてかよくわからない」と医師に言われたとき、「この人に手術してもらって、本当にだいじょうぶなのだろうか」と不安に陥りました。でもこの「わからない」という言葉は、実は誠実な言葉でもあることが、この本からわかりました。結果、私の手術は成功し、入院中は、多忙にもかかわらず、朝、晩、必ず声をかけてくれる誠実な先生でした。病気のときは、不安でいっぱいで医師との会話に敏感になります。この本を読むと、医師の思考回路がわかり、気持ちが少し楽になると思います。
奇跡の采配術―箕島・尾藤公の人間力野球 (ベースボール・マガジン社新書)
高校野球の名監督・箕島高校尾藤公監督。箕島高校の野球には今まで「奇跡」が何度もあったが、この本を読んでいると、やっぱり「野球の神様」を口説く魅力が尾藤さんにあったと思えるような気がした。その人となり、監督として、教育者として、そして父親として・・・。
野球部に左目の視力が全くない生徒さんが「尾藤監督の下で野球をしたい」と入学した時のエピソード。尾藤さんは、その生徒さん相手にノック、バッティングの入部試験を課す。ノックで右に左に振らせているうちに、目頭があつくなった・・・また、ご自分の癌との戦いでも、それを「命の延長戦です。まけるわけにはいかんのです」とおっしゃったというくだりを読むうち、読んでいる自分も涙が止まらなくなった。
教育に少し関わる身として、尾藤さんの姿を少しでも吸収していきたいと考えさせられた。ありがとう、尾藤さん。
聖地への疾走―夢の向こうに甲子園があった (日刊スポーツ・ノンフィクション)
このシリーズはこれまで発売されるたびに購入していましたが、今回の「聖地―」が一番読みごたえがありました。巨人松本の高校時代の話もよかったですが、年齢的に私は第6章の『延長18回の遺伝子』に惹かれました。いまから30年も前の話になるんですね。あの箕島と星稜の闘いで運命の落球をし、悲劇のヒーローとして描かれてきた星稜の加藤一塁手。しかしこの本では加藤のその後の取材し、彼の野球観や人生観を見事に描き切っている。噂では、あのミスを苦にして失踪とか、自殺などの話も飛び交ったが、どっこい加藤の人生はそれほどやわなものではなかった。
試合から15年目、当時のメンバーによるOB戦で箕島尾藤監督と久しぶりに会うくだりで、尾藤さんが「加藤君が来てくれた。元気でよかった、本当によかったなぁ」と涙を流さんばかりに喜んだエピソードが紹介されているが、加藤を思う尾藤さんの気持ちが痛いほどに分かり感動した。心を揺さぶる話随所に散りばめられており、この章だけでも買った価値があった。