星の王子さま (集英社文庫)
個人的に、『星の王子さま』の原典と日本語訳を手に入る範囲で比較したことがある。
結論としては、池澤訳が最も正確であった。その正確性と氏の簡潔な文体が融合しており
新訳の中では屈指の出来だと思われる。特にここで名指しはしないが、新訳の中には
誤訳、創作、破綻した日本語が多く含まれているものも何作品かあるため
『星の王子さま』をよりよく理解したい方には、ぜひこの池澤訳をお勧めしたい。
テオ・アンゲロプロス全集 DVD-BOX IV (永遠と一日/再現/放送/テオ・オン・テオ)
ユリシーズの瞳。それは幻のフィルムを求めての旅。そしてフィルムは希求としての始まりの世界、つまりはこの世界の再誕を錯覚させる虚構としての20世紀の開始であるのかもしれない。かつて故郷を逃れたひとりの旅人は長いときを隔てて帰還する。変り果てた土地。開始される遡行と探索。凍てつくバルカン半島は悲痛である。ひとも建物も河もすべてが閉ざされている。あらゆる外界が静かな拒絶をもって、あるいは無視を装うかのように他者の眼差しでそこに佇む。歴史の夢が、記憶が、そして祈りがゆるやかに交錯する。民族、宗教、イデオロギー。ひとは多くの衣を纏っては次々と脱ぎ捨てていく。希望はいまだ宙吊りのまま冬景色のなかで凍結している。そのフィルムに果たして写っていたのは、原初の光であるのか、わたしたちは未だその答えを見出せないまま映画を観終わらねばならないのである。
スティル・ライフ (中公文庫)
耳元をかすめる冬の風、雪のにおい、星のまたたき。
理科の教科書の天体観測の章、あの感じです。
しし座流星群があたまの中で降ってきます。
何よりもきれいな言葉、しつこくない文章は
ほかの池澤作品に比べても完成されているように思います。
池澤入門にはもってこいではないでしょうか?
木下牧子混声合唱作品集
「ひょうひょうと、笛を吹こうよ・・・」で静かに始まる、本当に叙情的な歌です。川面を流れるヒメマスは我々自身でしょうか。この作品は、全楽章とも『絵画的』なんですね。1曲目の盛り上がりの「ガラス細工の夢でもいい、与えてくれと。失った無数の望みのはかなさや、遂げられたわずかな望みの空しさが、明日の望みも空しかろうと笛に歌っているが・・・」の部分は、本当にジーンときます。
2曲目の木馬、3曲目の「この夕べ・・・」ではじまる本当に夕日をバックに歌うべき佳作。そして最後の5拍子の「空を渡れ、碇を上げる星座の船団!」では、激しいピアノのパッセージに乗せて希望への賛歌が堂々と歌われる・・・。このコラムを読んでいる人で、合唱団に所属して全日本に出た経験のある人はいますか? この曲はいまだ一度も歌われていません。1曲目と最終曲を浪々と歌い上げれば、相当の賞がもらえると思うんですよね・・・。