戦争と人間 第三部 完結篇 [DVD]
とは、公開当時のコピーですが、こんな力のこもった言葉で今日の日本映画は作れるのだろうかと思うほど、当時の意気込みを感じるものです。一部〜二部含めその豪華なキャッスティングには確かに当時の総力と言えるほどのバラエティーを感じ見ごたえがあります。三部の中心は、徴兵免除されていた五代家の次男俊介。目に余る反戦思想から遂に召集され、よりによって第23師団隷下部隊に配属、ノモンハン事件に遭遇する経緯が、この物語を完結へと一気に突き進んでいきます。前線の幕舎で辻参謀らに意見具申する柘植少佐が、「作戦の事は我々参謀に任せて、前線指揮官として任務をまっとうしてもらいたい」と一喝されるシーンは、まさしく今後数多の前線で同じく繰り返される象徴的な言葉です。客観的判断を軽視し、単に積極的な精神主義が横行していく様を、柘植少佐は五代俊介に「絵に描いた餅が本物に摩り替わる」と言って警告します。そして最後に拳銃と軍刀で戦車へ突撃するシーンはあまりにあっけないものです。戦闘を生き残った俊介が、凱旋して帰ってくる時に、俊介を追って満州までやって来た娼婦苫から一杯の水をもらい飲み干す時に、目を白目にして飲み尽くします。そして何事も無かった様に歩いていくシーンは、生きて戻れた喜びより、そのむなしさがよく現れています。ラストの軍人勅諭を読み上げながら集団火葬されるシーンは、まさにこの映画の完結の炎であることに気付くものです。
戦争と人間 第一部 運命の序曲 [DVD]
1970年作品、昭和戦後を代表する娯楽大作映画として映画ファン必見の作品、東京オリンピック後の邦画衰退期、最後の打ち上げ花火のような大河ドラマです、山本薩夫らしい分かりやすいキャラクター造形と豪快な演出は現在見てもよくぞ作ったと誰もが感心できるでしょう、この第一部では浅丘ルリ子・松原智恵子の美貌が光ります、
特定の主人公を設けずに多くの出演者を無尽に投入することで映画自体に物語を語らせるという理想的な王道映画、よってどの人物に感情移入するかで面白さの度合いや興味深さは人それぞれ、語り尽くせない映画ともいえます、
本作で語られる歴史観はまっかっかの大日本帝国悪玉史観なのですが、評者のような大日本帝国支持者が見ても特に違和感がないのは語り口が実に冷静なためです、例えば中盤のシーン、南原弘治演じる左翼シンパが「財閥は100円の賃金を払うところを50円しか払わずに財を成した」と言った後に、滝沢修演じる当の財閥当主が「年をとっても貧乏なのは本人の責任なのだよ」と語る冷静さです、21世紀のわれわれは知っています、20世紀に多くの国が何の根拠もないのに100円の賃金は100円として国民全員に配る体制をわざわざ革命してまで作ったのに100年も持たずに崩壊したことを、
本作の冷静な語り口に比較すれば現在、大声で大日本帝国悪玉史観を支持者する者たちがいかに幼稚で視野が狭くなってきているかがわかるというものでしょう(当時には存在した勢いがなくなり、つまり化けの皮がはがれ、それだけ追いつめられているともいえるでしょう)、
要所要所に当時の歴史事象が字幕・ナレーション付きで説明される親切さなのですが、ある事件のときには某AKA党が「暴動指令」を出していたというのには苦笑い、そんな「指令」をだすような連中は何時の時代だって取締り対象でしょ、
戦争と人間 第二部 愛と悲しみの山河 [DVD]
1971年作品、「スターウォーズ」サガと同等の量を擁す大河ドラマのエピソード3&4にあたる巻、時代背景は昭和11年(1936)の226事件前後、世界史が大きく大戦争の時代へ舵取りを変えてゆく前夜です、
第1作に続き浅丘ルリ子は後光が射すような美しさ、本作から登場の吉永小百合はそれほどきれいには撮られていない、特筆すべきは佐久間良子、画面から香りたつような人妻フェロモンには圧倒されます、当時未婚で30歳を過ぎたばかりでこのフェロモン横溢はいったいなんなんでしょう、本作の佐久間に比べれば現在の30前後の女優達は全員子供にしか見えません、北大路演じる伍代家次男の純情青年との不倫関係は姦通罪の存在した時代ならではの緊張感あふれるもので本作をメロ・ドラマとしても名作にしています、
本第2部は高橋英樹・浅丘、北大路欣也・佐久間、山本圭・吉永、加藤剛・栗原小巻という大スター4組にくわえ地井タケオとパルチザン女性、山本学・和泉雅子とそれぞれの恋愛模様が綴られた副題の「愛と悲しみ」に相応しい内容です、以上名前をあげた全員が現在もかつての美男美女の容貌を崩さずに大御所として活躍する現実には畏敬の念も感じます、
恋愛と交互に治安維持法の厳格な執行による左翼弾圧状況がかなりの時間をさいて描かれます、なぜこの昭和前期の時代に治安維持法が強力に執行されたか? 疑問の方もいるでしょう、「共産主義黒書 ロシア編 コミンテルン・アジア編」の2冊や「中国はいかにチベットを侵略したか マイケル・ダナム著」などを副読本にすると左翼弾圧の正当性が学習できるでしょう、
ちなみ現在の日本国刑法で定められたもっとも重大な犯罪は内乱罪と外患誘致罪です(だから第2編 罪 の冒頭に記述されているわけでしょう)、「誰」を対象としているかは指摘するまでもないでしょう、
人間の條件〈下〉 (岩波現代文庫)
国境守備隊はソ連軍の圧倒的な軍事力の前に崩壊・全滅した。その中には主人公梶の学生時代・会社時代の友人も含まれていた。梶は生きて妻・美千子に会うために必死の退却を行う。
彼を慕う部下や途中で合流した敗残兵とともに小戦闘を繰り返しながら家路を目指す。生きるために民間の非戦闘員が巻き込まれることにも目をつぶらなくてはならなかった。しかし必死の逃避行も民間人を連れて逃げていたが故に投降し、捕虜となり収容される。収容所での過酷な生活を知恵を振り絞りながら生き抜くが、かつて梶の目の前で非人道的な行いをした兵士が、今度は収容所内で部下を殺し、梶は復讐のために彼を素手で殴り殺し、収容所から脱走する。一路家路を目指すが、敵国日本人のしたことを忘れない中国人に半殺しにされたり、飢えながらも美千子に会いたい一念で逃避行を行う姿は人間の情念の凄まじさを感じる。
極限下で生きると言うことの厳しさと人間性を考えさせられる一冊である。
人間の條件〈上〉 (岩波現代文庫)
この本を読むと「正義」という言葉が軽く出せなくなります。 また、正義という言葉を多く使っている人が軽く見えてしまいます。
物語は戦争中の日本であり全体主義が強い時代です。 その中で主人公は「正義」を貫こうとします。人間的に良い事をしているはずですが、全体主義の時代の中「変質者」として扱われて行きます。自分の考えを持たずに全体主義という長いものに巻かれていれば、高収入、高い待遇、戦地に行かない特権を楽に手に入れる事が出来た主人公であるが、「正義」の心が勝ってしまいそのような待遇に甘んじることが出来ません。
その後、戦地に行くことになってしまい、最終的には「理想郷」だと思っていた所に行くことが出来ます。でも「理想郷」でも全体主義が力を利かせている世界だと言う事に落胆してしまいます。
本書は上中下の三部構成になっていますが、本に引き込まれてしまうので時間を忘れてしまうと思います。新作がつまらないと思っている人はこのような旧作を読んで見ることをオススメします。