放浪記 (新潮文庫)
「放浪記」は、林芙美子の代表作であり、昭和5年に刊行されたもの。
本書ではそれに続く「続放浪記」と、戦後に発表となった「放浪記第三部」も併せて収める。
昭和初期の作品だが、今もこの作品を原作とした舞台が森光子主演で演じられ、
45年に渡り1800回以上の上演数を記録。なお継続中となっており、メディアでも取り上げられることが多い。
彼女が書き留めてきた雑記を元とする作品だが、
時系列に整然と編集されているわけではなく、雑然とした構成である。
文体もまた洗練より奔放さを感じさせる。
が、そんな一種”粗雑さ”が、作中に描かれる極限的な貧困と、
反発し喘ぐように生きる強さをかえって引き立てている気がする。
時に彼女の見せるあけすけな情感や、無政府主義的な態度などは、
読んでいるこちらが際どさを感じてしまう程である。
昭和初期の女性がこうまで書くものかと、今更ながら驚かされる。
第二部の冒頭
「私は生きる事が苦しくなると故郷というものを考える〜<略>〜
私には本当は、古里なんてどこでもいいいのだと思う。
苦しみや悲しみの中に育っていったいったところが古里なのですもの」
これが彼女のこの作品を表している気がする。
作中に脚色を指摘されることもあるが、あらゆる意味で彼女の生きる覚悟を垣間見る。
桜島、古里温泉は彼女の原籍地と言われる。
海の見える温泉地。ふるさとに迷う彼女の始まりの土地の名が”古里”であった事は、
皮肉であるようにも、何か運命的であるようにも思えてしまうのだ。
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最近はオーディオブックが日本でも流行りだしているが、このCDは単なるオーディオブックではない。脳への効果が期待できる特殊効果音(脳の中を音が動き回っているような3D音源)が、朗読の中に織り込まれている。
活字だけだと淡々とした古典文学も、こうした効果音が入ることでハリウッド映画並みに迫力が増す。文学の新しい楽しみ方を提供してくれている貴重なCDだ。何度も聞いてしまう。とくに『トロッコ』(芥川龍之介)と『よだかの星』(宮沢賢治)がお勧め。
浮雲 (新潮文庫)
戦後の退廃した時代を舞台に、安南で出会い、すごした美しい思い出が忘れられず、
盛りを過ぎた愛にしがみつく女と、別れたいのに女を突き放しきれない男の腐れ縁の物語。
物語の最初のほうで語られる安南での夢のような日々。一方内地に引き上げてからの
住む場所にも事欠くような鬱々とした日々。その対比が二人の色あせた関係のわびしさを
いっそう際立たせている。物語はゆき子と富岡の視点から交互に語られるが、
他の男に生きるために頼るものの、富岡だけを一途に想うゆき子と、次々と他の女に
目移りしつつ、わずらわしくなってきたゆき子を捨てきれない富岡に、男女の典型的な
恋愛間の違いを見せ付けられる気がする。
浮雲 [DVD]
成瀬極上のメロドラマ。昭和30年作品。林芙美子原作の
男女の泥沼劇を森雅之、高峰秀子の豪華キャストで描く。
戦中の進駐軍としての豊かな暮らしとは対照的な、戦後の
混乱を象徴したバラック暮らしが鮮烈な印象を残す。新時代
の波に乗り切れず零落し続け、忘れたい姦淫した男にさえ頼
り、戦中の仏印インドシナでの淡い思い出にすがりながら生
きる女を演じる高峰秀子の圧倒的な存在感。だらしなく女を
騙し続ける、どうしようもない男を演じる森雅之の繊細な演
技に嘆息する。
成瀬には珍しく銀座界隈ではなく、代々木、渋谷、新宿と
いった盛り場のキーワードが頻出する。全編を通して音楽が
流れ続け、仏印インドシナや屋久島のシーン等、ドラマチック
な場面が多い。裏ぶれた長屋が生活の苦しさを、病んだ高峰
に追い討ちをかけるような屋久島の止まない雨と厳しい自然
が悲劇的な運命を突きつける。
理屈で割り切れない男女の機微のはかなさを見つめる成瀬
の視線に、理解を突き抜けた感動がある。