官僚たちの夏 [DVD]
このドラマは、視聴率のために恋愛的な要素を混ぜたり、不自然にスキャンダラスなストー
リーを挿入したりするようなことは一切せず、ほとんど官僚と政治家のみを登場人物にして、
政治や政策に関わる対立や葛藤を正面から取り扱っており、非常に好感が持てる。アメリカの
ドラマ「ザ・ホワイトハウス」をやや彷彿とさせる。
このドラマの優れたところは、政治的な物事の善悪を単純化することなく、国の政策を決め
るにあたって、どんな政策にもメリット・デメリットがあり、現実の政治は、そうしたせめぎ
あいの中で動いてきたのをよく表現しているところであると思う。
主役側として設定されている国内産業派の言い分は、正しそうなこともあるが、輸入規制に
より日本の苦手な分野は保護しろ、(成長産業・衰退産業問わず)とにかく日本の産業を守れ、
といった主張や、国際関係のことは一切気にかけない姿勢、公害の時の鈍い対応などから、視
聴者が、単純に彼らに共感するようには作られていない。
また、いくら通産省には日本の産業を育成する責務があるといっても、通産省がここまで産
業界に肩入れし、また、自由競争を無視して、産業界にこんなにも介入しているのがいいので
あろうか、という疑問を、そうしたやり方の弊害も知っている現代の我々なら持つことだろう。
このように物事の両面を表現している点で、かなり公平で実直なドラマであると言える。
しかし、国内産業派が庶民を思う情熱家としてよく描かれ、国際通商派が概して自己の地位
や権力を欲する未熟な人間のように描かれているのはいかがかと思ったが...。
とはいえ、炭鉱の事故の時の苦渋の決断などのシーンはすばらしかった。
演技は総じて優れていたが、その中で堺雅人の演技は、唯一わざとらしすぎるように感じた。
とても残念なことに、視聴率は低かったようであるが、これからも、こういうドラマをがん
ばって作ってもらえればと思う。
そうか、もう君はいないのか (新潮文庫)
良い本であった。
奥さんとの出逢いのくだり、
古風だが、日本の良き時代を思い起こさせる話である。
心に残るのは、亡くなった人も大変だが、残された人も大変である。
特に理不尽な死であれば、あるほど遺族の心の傷、喪失感も大きい
である。
愛した人を失った後、残された人は、心を縛られ、
長く、苦しい自問の時、を過ごさねばならない。
それから、娘さんの記述にもある、
妻の本を書き上げる前に、
恥ずかしいので、母がこれ以上書かれるのを拒み、
父を連れて行ってしまった。とあるが、
人にとっての死が、不幸でないのは、こういう時かもしれない。
楽しいばかりが人生ではなく、
愛する人とのつらい別れ、人生の意味を
考えさせられる一冊である。
鼠―鈴木商店焼打ち事件 (文春文庫 し 2-1)
昔、神戸に「鈴木商店」という商社があり金子直吉という人が大会社に育て上げたが、金融恐慌で倒産し、その分社として現在の日商岩井や神戸製鋼等があるということは知っていました。しかし日本を代表する多くの大会社の前身でありながら、鈴木商店がどのような会社であったかはベールに包まれています。本書では「米騒動」時において鈴木商店が焼き討ちにあった事件を中心に非常に詳細な取材を行っており、それに派生して当時鈴木商店がどのような仕事をしており、どのような社風であったか。そしてそこに働く人たちのポジションや派閥がどうであったか。金子直吉がどのように会社を考えていたかが非常にリアルに分かります。いろいろな小説を読んできましたが、ここまで徹底的な取材を行った本は初めてで、非常に感動しました。
ビジネスマンの父より息子への30通の手紙 新潮文庫
翻訳で読んでいるのではっきりとは分からないのだが、言葉の選び方、語り口、話の運びにすごく気を遣っているのが分かる。一般的には親子の関係と言うのがこれほど慎重に扱われるとは思えないので、まずここからして次元の違う話だなと思えた。(たしかに本書も手紙がベースであり、さすがに会話では諭しにくいのであろう) 悪く言うと、大の男を20年もの歳月をかけて非常に丁寧に誘導・教育しているのである。創業社長一家の帝王学というのはこういうものなのだろうか?
本書を一般的な会社の教育テキストとして啓蒙や経営指南に使うことは多いだろうが、内容はビジネスの基本マナー以前の躾から始まって、経営者の視点や判断についてと成長に合わせた内容になっており、状況に合わせて読み返すことで、その都度得るところがありそうである。
個人的には学校の成績が下がったことで父親からお手紙が来るようではやりきれないが、年を取るとそのありがたさは感じられる。そういう意味で、本書の語り口は非常に周到なのだ。